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「人を想い、地球を想う」 企業であり続けるために
■はじめに
2021年6月に社長に就任し、2年が経ちました。社長就任当時は、新型コロナウイルス感染拡大の真っただ中にあり、まずは、従業員の安全確保と事業活動継続の両立を実現する体制確保に取り組まざるを得ない状況でした。出張もできずに苦労しましたが、そのおかけでウェブ会議やリモートワークの導入など、時間や場所にとらわれない新しい働き方の導入も進みました。人的資本経営実践の観点からも、そうした良い副作用もあったように感じています。
スタートはあわただしかったものの、社長就任の内定後すぐに中期経営計画の見直し議論を進め、6月の就任時には新体制の明確な方針が確立されていました。『'21中期経営計画の見直しについて』では、当社としては初めて、中長期での目指す方向性を「2030年度の“ありたい姿”」として示し、「変化にぶれない企業体質の確立」として5項目のKPIとともに目指すこととし、“ありたい姿”実現のための各取り組みを現在進めているところです。
■2030年度の“ありたい姿” 「変化にぶれない強い企業体質の確立」
基本理念「人を想い、地球を想う」のもと、事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献できる企業づくりを推進し、全てのステークホルダーに信頼される経営を目指します。
収益性 | 売上高:1,000 億円 営業利益額:130 億円 |
資本効率性 | ROE :10% |
株主還元 設備投資 |
中長期的な企業価値向上を図る資本政策 |
人財戦略 | 変革を推進する人材の育成 |
ESG | 持続可能な社会の実現への貢献 (社会的・経済的価値の向上) |
■「チャレンジしよう。」
各取組みのアウトカムを生み出し、“ありたい姿”を実現するには、まず、企業としての土台作り、企業風土の改革が大切であると考えています。当社は、1919年に木綿製伝動ベルト(平ベルト)の生産から事業をスタートさせ、その後いくつかの事業ポートフォリオの変遷を経て今の事業体制になっていますが、新規参入が難しいニッチな業界であることからか、これまでの当社の企業風土は、事業計画、財務政策、情報開示または従業員の気質も含めて保守的なものであったと感じています。まずはこれを変えていこうとしています。社長の就任以来、グループ従業員全員にかけ続けている言葉は、「チャレンジしよう」です。保守的な目標を達成するよりも、たとえ目標が達成できなかったとしても、より高みを目指してチャレンジングに取り組んだ姿勢が評価される、そんな企業風土を醸成したいと考えています。
新しい企業風土を醸成していくためには、従業員とのエンゲージメント向上も大きなキーポイントになると考えています。昨年度末、当社は、企業理念や経営基本方針などを一つの“理念体系”として整理しました。この理念体系では、基本理念を“わたしたちの価値観”、経営基本方針を“果たすべき使命”、社訓を“行動のよりどころ”と位置付けましたが、こうした価値観を従業員と共有・共感することで、エンゲージメントの向上を図りたいと考えています。
■“選び、選ばれる”企業であるために
社長就任後に従来から大きく方向転換したことの一つが、ESG経営の深化です。これまでの当社は、“事業活動の外側で社会貢献を行う”といった従来型のCSR活動しか行えていませんでした。企業が果たすべき役割が大きくなった現代においては、経済価値と環境・社会価値のトレードオンを目指し、また、当社がどのような価値を社会に提供できるのかをしっかりと示す必要があるものと認識しています。そのため、私自身が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会を立上げ、また、サステナビリティの課題に対応する専門部署を設置するなど、サステナビリティの推進体制を強化することからはじめました。
サステナビリティ推進委員会は、四半期に1回といった開催頻度が一般的なようですが、当社は原則月に1回開催しています。当社のESGの取り組みが遅れていたことは重々認識しており、全てのステークホルダーから“選び、選ばれる”企業であるためには、私自身が不退転の覚悟で臨み、ESG経営を強く推進していかなければなりませんでした。サステナビリティ推進委員会の設置初年度であった2022年度では、まず、当社マテリアリティ特定の議論からはじめ、特定したマテリアリティおよびそのKPI達成に向けた様々な取り組みを前に進めることができました。
環境に関する取り組み、なかでも気候変動に関しては、2050年カーボンニュートラル達成に向け、2023・2025・2030年度の中間目標を設定し、太陽光発電システム設置事業所の拡大や、重油に比べて環境負荷の少ないLNGガスへの燃料切り換えなどの取り組みを強化しています。
また、2022年12月には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明するとともにTCFDコンソーシアムにも入会し、ようやく、同提言に沿った情報開示も行えるようになりました。
脱炭素の取り組みと並行して、循環型経済実現への貢献のため、環境配慮型製品の開発強化にも注力しています。当社はこれまでも、自動車の燃費改善や、設備の省エネルギーに貢献できる種々のベルトを開発・販売していましたが、現在、そうしたこれまでの製品にサーキュラーエコノミーの観点を加えた次世代型のベルトの開発を進めています。具体的には、非化石由来およびリサイクル材料の使用比率を2030年までに70%にまで高めたベルトを開発し、同コンセプトの製品ラインアップを順次拡大していきたいと考えています。
社会に関する取り組みでは、先に触れました通り、変革を推進する人材の育成を進めます。人の力を最大限に発揮できる人事制度、教育研修制度、職場環境の充実を図るとともに、多様性を尊重した新しい発想と変革を恐れないチャレンジ精神を大切にする企業風土の醸成を目指します。また、人権に関する取り組みも急ピッチで進めているところです。昨年度までに、人権方針の策定が完了し、今年度はサプライチェーンを含めた人権デューディリジェンスおよび調達ガイドラインの改訂に取り組んでいます。人権に係る取り組みは、持続可能なビジネスを展開し、社会に貢献するための必須条件であると考えています。
ガバナンスに関する取り組みでは、昨年度に当社として初めての女性取締役が就任し、取締役会における社外取締役比率が1/3以上になるなど、強固なコーポレートガバナンス体制の構築に取り組んでいます。また、ステークホルダーエンゲージメントの向上を目指し、積極的な情報開示に努めていますが、情報開示に関しては、これまでの当社の取り組みには反省すべき点が多くあったと認識しています。私たちは、ステークホルダーの皆様に、もっと深く三ツ星ベルトグループのことを知っていただく努力をしなければなりません。
例えば、先述の理念体系では、経営基本方針「高機能、高精密、高品質な製品の提供を通して社会に貢献する」を、当社の“果たすべき使命”と位置付けました。当社の製品は、一般消費者の目には付きにくいものではありますが、自動車・二輪車、農業機械・工作機械などの各種産業機械、風力発電機などのほか、洗濯機やホームベーカリー、プリンタ・複写機、駅務機器、ATM、自動販売機、あるいは温水洗浄便座など、本当に大小様々なベルトが、目に見えないところで世界の人々の快適な暮らしを支えています。しかし、こうした“三ツ星ベルトグループが社会に貢献できる価値”をステークホルダーの皆様にお伝えできていないように感じています。当社のことを深く知っていただくことで、ステークホルダーの皆様と価値観を共有し、持続可能な社会の実現に向け、協働いただける関係構築を目指したいと考えています。
■2030年度の“ありたい姿”実現に向けて
今年は、’21中期経営計画の最終年度となります。’21中期経営計画の3か年においては、新型コロナウイルス感染症にはじまり、ロシアによるウクライナ侵攻、原材料・物流費の高騰、半導体不足による顧客の稼働率低下、世界的なインフレと金利の上昇による景気後退懸念など、非常に厳しい事業環境ではありましたが、為替が期初想定よりも円安に推移していることもあり、目標値よりも高い業績となることを見込んでおります。当中期経営期間においては、自動車用ベルトも含め堅調な推移となりましたが、2030年度の“ありたい姿”実現に向け、2024年度からの新中期経営計画では、新規事業を含めた新たな市場獲得に取り組んでいかなければなりません。
自動車用ベルト分野では、自動車の電動化をチャンスと捉え、非内燃機関用ベルトの拡販に取り組んでいます。電動化に伴い内燃機関用のベルト需要は今後確実に減少しますが、電動車にも使用されるEPB、EPSなどの電動ユニット用ベルトや、または二輪車・後輪駆動用ベルトの販売拡大などにより、2030年度の自動車用ベルト分野では、2022年比で“売上減”ではなく、“売上増”を目指しています。
一般産業分野においては、軽量で騒音が小さく、油を使用しないベルトの優位性により、各分野でのチェーンからの置き換え需要獲得などを進めています。また、大型農業機械市場においては、欧米市場での当社シェアは現状では決して高いものではなく、同市場におけるシェア拡大は当社にとって大きなチャンスであると捉えています。さらには、サステナブル原材料の使用比率を高めるなどした環境価値の高い次世代ベルトの需要は今後ますます高くなるものと予測され、こうしたベルトの販売拡大により、事業活動を通じた環境価値の向上を目指します。
また、その他の当社が取り組んでいる事業分野では、それらの事業に対して、M&Aなどを含め、シナジー効果が期待できる施策を積極的に取り組んでいく考えです。
当社のESG経営は端緒についたばかりですが、この先50年、100年先も持続可能な社会の実現に貢献できる会社であり続ける決意です。当社はこれからも、基本理念「人を想い、地球を想う」のもと、ステークホルダーの皆様と積極的な対話を行い、事業活動を通じて環境・社会価値向上に資する取り組みを推進し、豊かな未来への発展を目指してまいります。引き続き当社事業活動へのご支援を賜りますようお願い申し上げます。
2023年9月
代表取締役社長
池田 浩